西国街道 その2/広島 草津新町「とんかつ専門 とんき」2019年10月23日〜黒豚の旨味引き出す厚切りの名店

2020年11月20日

店の選択に正直迷った。今日は広島、そして明日は博多・・・どちらも滅多に行けない場所である。それだけにお店は慎重に選びたい・・・

しかし、広島×とんかつでググると、個人の食べ歩きブログがうまくヒットせず、食べログやRettyを頼りにするしかない。一つ、ミシュランに取り上げられたという「豚笑」という店が出てきたが、広島駅からちょっと遠すぎる・・・

悩んだ末に、新井口の近くにある「とんかつ専門 とんき」という店に決めた。黒豚、厚切りのロースカツ、人気店などのキーワードが決め手となった。「とんき」という店名でググってみると、今度は個人ブログが出るわ出るわ・・・かなり評価の高い名店のようだ。期待に胸が膨らむ。

新井口駅から少し遠いが、お店の隣のアルパークというショッピングモールまで、駅から直通のペデストリアンデッキが整備されている。動く歩道もあるので移動は非常に楽である。

移動は楽です
正面がアルパーク、左がとんき

動く歩道の終点に着き、左方向に曲がる。大通りを跨いでアルパークの正面に出ると、左手にとんきの裏面が見えた。3階建ての立派な建物だ。

更に進むとアルパークの入り口があり、その左手に「とんき」の正面が見えてきた。アルパークの入り口を入ってエスカレーターで降りようとしたのが間違いだった。エスカレーターが遠く、「とんき」から離れた入り口に降りてしまった。かなりの遠回りだ・・・

正面のアルパーク入り口を入ると遠回り

帰り道で確認して分かったが、正面に見える入り口の手前右側に、1階駐車場へ降りるエスカレーターがある。それを降りると「とんき」は目の前だ。

柱の向こうから下へ降りる
これを降りるのが近道

堂々たる店構え。さすが地元で愛されている名店だ。時刻は12時半。既に店の前に数人並んでいるが、ほどなく入れそうだ。とりあえず店の前で待つことにした。ショーケースをふと見ると、サンプルのとんかつのリアルな事・・・これはクオリティ高い・・・おや?

リアルなとんかつ
マ、マスコットが・・・

ショーケースの端に豚のマスコット・・・うー・・・大丈夫か?・・・・・いやいや、こんな小さなマスコットだから、お店がキャラとして推してる訳でもないだろう・・・気にしなくても・・・それに「矢場とん」だって結局は美味しかったじゃないか・・・(東海道 その3/名古屋「矢場とん」参照)

マスコットのことは忘れよう・・・と思っていたら店内に通された。ランチ時であり、店内はほぼ満席だ。よく掃除された綺麗なカウンターに案内された。

メニューはあらかじめ決めていた特選ロースかつ定食。 ご飯と豚汁のおかわりは各100円と書いてある。これはちょっと珍しいが、店内を見渡すと女性客も多い。小食でお替りしない人も多いなら、ご飯とみそ汁は一杯分の価格設定にして、お替りする人に代金をもらった方が客にとってもいい。

厨房には料理人が二人、親父さんと息子さんのようだ。息子さんは30代の後半か40代に見える。ということは親父さんは元気に見えるが70に届いているだろうか・・・とんかつの調理は親父さんがやっている。片栗粉をまぶして卵にくぐらせ、パン粉を付け、揚げる。パン粉は白いパン粉と少し黄身がかったのと2週類あるようだ。カウンター越しに一連の調理が見える・・・

 「次ヒレ二つ行こう。その次特選ロース。」親父さんが声をかけ、キャベツを配したお皿に、テキパキと揚がったとんかつを乗せていく・・・  特選ロースカツは厚切りなので、やはり時間がかかるのだろう・・・次々とランチのメニューが運ばれていくのを見送りながら待ち焦がれていると、ようやく私の番が来た。

特選ロースカツ定食1900円  塩も用意されている

運んでくれるお姉さんも丁寧だ。「よかったらお塩でも召し上がってみて下さい。」と声をかけてくれる。 押し付けがましくないのがいい・・・

 上からみると小ぶりだが厚みがかなりある。ここで恒例の断面チェック。うーん、絶妙の火入れ具合。ほんのりピンク色だ。このきれいな薄いピンク色は、このブログのきっかけとなった、1回目の「黒かつ亭」以来だ。

久々の、ほんのりピンク色

厨房は目の前なのに揚げ時間を知らせるタイマーの音が聞こえない。親父さんが同時に複数の、種類の違うとんかつを揚げながら、それぞれの火入れ時間を経験で見切っているということか・・・ これは見事な職人技かもしれない・・・

そしてこの断面の照り。肉汁が滲み出してキラキラ光っている・・・

最初の一切れは塩。暑さは2cmを超えているか・・・かぶりつくと、この厚みにも関わらず柔らかい・・・そしてしかし崩れることなくしっかりとした歯ごたえを残しながら噛み切る快感・・・肉の旨味が塩に引き立てられて口の中に広がる・・・ おー・・・旨い!これは旨い!名店発見!

衣はパリッとした感じだが、薄いため硬くは無く、この柔らかい肉の食感にちょうどいいアクセントを添えている。しかし、ここでの主役はあくまで肉だ。 肉がとにかくジューシーだ。これは厚切りの一つの特権だろう・・・

だがいくら厚切りでも、もともとの肉質が良く無いとこうは行かない・・・ これは黒豚の力か・・・次はとんかつソースもつけてみる。まだ塩でも味わいたいので、皿にソースが落ちて他のカツを汚さないよう慎重につける・・・辛子も少々・・・

とんかつソースと辛子

旨い!これも旨い・・・甘すぎず、適度な辛さでとんかつを引き立てる。 肉の旨味に浸っていると、ほい、と親父さんがキャベツを足してくれた。追いキャベツだ。そういえば他の人のブログに書いてあった。・・・

ここで気づいた・・・とんかつに熱中するあまりキャベツに手をつけていない・・・盛り上げすぎたキャベツは、一瞬ラーメン二郎の野菜マシマシ状態になり、程なくとんかつの方に崩れ落ちてきた。野菜も摂らにゃあかん・・・

キャベツを食べながら、目の前の親父さんに親しみを覚え、思わず声をかけた。「すごく美味しいですね」

親父さんの反応は予期せぬものだった・・・声を返すことなく、微妙な感じでスルーしたのだ・・・あれ?聞こえなかったのかな?・・・・いや、目の前で声をかけたのだから、さすがに聞こえているだろう・・・私の言葉は宙に浮き、気まずさを払拭しようと更に言葉をかけた「本当に旨い・・・」半分は自分に言い聞かせるように・・・

・・・ひょっとして・・・怒った?

まさか落語に出てくる江戸っ子職人のように「なんだあ?うめえだと?俺のとんかつがうめえなんざ、あたぼうだ!(当たり前だ、べらぼうめ!の略)ちったあ、気の利いたことを言いやがれ!」などと思った訳では無いだろう・・・

キリッとしているが優しげで、実にいい感じの親父さんである。こだわりはあるだろうが、頑固で横柄な感じは微塵もない・・・普段お客さんが私のように声をかけることが無いのなら、突然の声掛けに戸惑ったのかも・・・そう思いたい・・・

気持ちを切り替え、とんかつに戻ることにした。再び塩だ。一口食べると、もう気まずさは消え、肉の世界に浸る・・・味の魔力だ・・・至福の時間・・・

味噌汁もお新香も美味しく、最後まで楽しめた。お勘定の時にもう一度言ってみた。今度はお姉さんに。「本当に美味しかったです。」明るい声が返ってきた。「有難うございます!」笑顔と共に・・・

そんな会話に気を取られ、レシートをもらうのを忘れたことに気付いたのは、新井口の改札をくぐってからだった。また広島を訪れた時には必ずここへ来るだろう・・・レシートのためではなく、とんかつのために・・・

・・・・夜、同じ会社の広島支店の人達と会食があり、「とんき」の話を出してみた。するとやはり知っている人がいた。

「あー、知ってます。昔、そう、もう10年以上前になるかな・・・あのあたりで働いていて、よく行きましたよ。あそこは旨かった。まだあの親父さんがやってるんですか?・・・そうですか・・・懐かしいな。また行ってみようかな・・・」

旨い店は人々の記憶に残り続ける・・・名店はこうして時代を超えて行くのか・・・あの息子さん(と私は勝手に決めつけているが・・・違っていたらごめんなさい)、息子さんも時期が来れば親父さんに替わり、そしてその味を受け継いで行く・・・そんな未来に思いを馳せた・・・

いい旅だった・・・

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