西国街道 その1/神戸 三ノ宮「とんかつ む蔵」2019年10月10日〜厚切りの意味を考える

2020年10月21日

「元町のとんかつ むさし。 分かります?」聞くなりタクシーは発進し、すぐにロータリー出口の信号で止まった。神戸三ノ宮駅前である。

「とんかつ むさし・・・ってのはわからんけど・・・」「住所ありますよ・・・」言いながらダッシュボードを見ると、ナビが無い・・・そもそもナビが使えそうに無い・・・かなりの高齢。すかさずスマホ画面の地図を見せる・・・「ここです」

「うーん、どう行けばいいのかな・・・」私は天を仰いだ・・・他所者の私が地図を見ても、ここからそう遠くない道のりである。あなた地元の人でしょ?・・・そもそもそこまで土地勘が無いのに何故闇雲に発車した?

「わからないならいいです。降ります。」時間が無い・・・小走りにタクシー乗り場に戻り、別のタクシーに乗り込む。今度の運転手も店は知らなかったが地図でわかってくれた。

「このあたりは一方通行が多いから近くまででいいですか?」ようやくまともな会話ができた・・・大型台風が迫っている。天気が持てばいいが・・・思えば今日は朝から逆風だった。

2時間半前・・・

「・・・・お忙しいところ恐縮ですが、今週中に指示を頂けないでしょうか」・・・か。今週中ね・・・え?今週中?

・・・木曜日の午前9時30分。13時には神戸ポートピアで会議なので10時前の新幹線に乗り、会議の前にゆっくりとんかつタイムを取ろうと思っていたところに、このメールである。

今週中と言われても今日の午後から神戸・・・明日金曜日も終日予定が詰まっている・・・ということは、いつやるの?・・・今でしょ(古っ!)自分でツッコミを入れながら新幹線を30分遅らせた・・・

あのメールが無ければ地下鉄県庁前で降り、ちょっと距離はあるが街並みを見ながら歩こうと思っていたが・・・まあ無事に指示書も送ったし、良かった良かった・・・

今日向かうのは厚切りとんかつが売りの「とんかつ む蔵 元町本店」。

とんかつむ蔵 ウエブサイトより

ググると「とんかつ 武蔵」で出てくるサイトもあり、また同名で別の店もあったようでややこしい。ここは昭和14年創業の老舗で、ウエブサイトが綺麗に作られている。この厚切りのロースカツ定食の写真が決めてとなった。駅前に支店もある。駅前の支店の方が便利だが、やはり行くなら本店だろう・・・

「ここでいいです」看板が見えたのでタクシーを降り、歩いた。

看板の隅にふと目が止まった・・・

え?・・・「食べログ話題のお店」?・・・大丈夫か?

名店では取材お断りの店というのもよく聞くというのに、このウエルカムぶり・・・そもそもこんなステッカーあったんだ・・・今まで私が気づかなかっただけで、よくあるのかな・・・ちょっと心配になりながら改めてビルを見ると、古びた雑居ビルの裏口・・・食べログによると1階の筈・・・だが・・・

サイトの写真で見たような入り口が無い・・・ここは裏口なのか・・・なら、表の入り口は何処だ?

ビル の外壁に沿って歩いていくが入り口が無い・・・荷物が重い・・・10月だというのに、大型台風が迫っているというのに・・・暑い・・・

とうとう1ブロックを一周して元の看板に戻ってしまった。あれ?何処なんだ?看板をよく見ると、ステッカーに気を取られて見落としていたが 2階と書いてある。

え?食べログには1階って・・・急いでスマホを取り出す。今ここで食べログ見たってしょうがないが、確認しないと気が済まない・・・時間もないのに無駄な行動をする私である。

・・・やはり食べログには1階と書いてある。迷ったことをとりあえず食べログのせいにして気持ちを落ち着かせた・・・仕方なく階段を上がる。全く旨い店がありそうな雰囲気が無いが・・・ここだ。

え?・・・なんか違う、サイトの写真と違う・・・いや、よく見れば違わないが、この暗さ・・・何だかうらぶれ感が・・・

食べログステッカーと相まって更にテンションが下がる・・・店の選択を誤ったか?・・・駅前の支店に行った方がいいか?いや、そんな時間は無い。入ろう・・・

中は明るかったが、間も無くランチ時なのに空いている。これから混み出すのかな?・・・時間がないので店に入るなり注文した。午後からの会議の準備をしつつ暫く待つ。厚切りなのでやはり時間がかかるがここは待つしか無い・・・するとようやく・・・

とんかつ定食 2000円

パッと見とんかつが随分小ぶりな感じがするが、厚切りだからボリュームはあるのだろう。ここで恒例の断面チェック。

やはり分厚い。断面はやや赤みがかって見えるが、いわゆるレアの色ではなく、しっかりと火は通っている感じだ。断面の照りは少なく、肉汁は少なめな感じに見える。

まずは塩で一口。塩は普通のアジ塩だ。あまり塩で食べることを想定していないのだろう。火は通っているのでジューシーさは少ないが、厚切りにも関わらず柔らかい。やや淡白な味で、いわゆる銘柄豚では無いだろうが、それなりに上質の肉を使っているのだろう。ロースかつだが脂身は少なめである。

こういう肉はとんかつソースを付けた方が旨い。とんかつソースは甘すぎず、良い味だ。

食べながらふと思った。大阪の「とんかつ 大喜」はかなりの厚切りだった。そしてこの「とんかつ む蔵」も・・・とんかつのカットしてある幅よりも厚みの方が大きい。このとんかつで言えば幅は目測だが1.5cmほどか。それに対して厚みは倍近くある。これって・・・厚切りの意味ある?・・・

今まで揚げたとんかつをカットする幅は意識していなかったが何となく同じぐらいの幅になっているものだと思っていた。だからこそ厚切りになるほど噛み応え、ボリューム感があり、肉の旨さを堪能できると思っていたのに・・・

しかし厚切りにした分幅を細くするなら、話は変わってくる。仮に3cmの厚切りを幅1cmでカットした場合、口に入れた時の噛み応えは、厚みと幅の小さい方で決まる筈だ。とすれば、噛み応えは1cm分だろう。

厚さ3cm幅1cmの厚切りと、厚さ1cm幅3cmの普通切りの噛み応えは1cm分

また、一旦噛み切った後、口の中で咀嚼する際のボリューム感、食べ心地は噛み切った面の断面積で決まるのでは?つまり、厚さ3cmのとんかつを1cm幅に切った場合と厚さ1cmのとんかつを3cm幅に切った場合は同じ食べ心地ではないだろうか?

厚さ3cm幅1cmの厚切りと、厚さ1cm幅3cmの普通切りの食べ心地は3㎠分

では幅と厚みのサイズはどちらがどちらでも同じなのか・・・いや、そうではないだろう・・・

衣の面から熱が通っていくので、幅が小さく厚みが大きければ衣の比率が少なく、断面のレア感が増す。幅が大きく厚みが小さければ、衣の比率が多く、断面のレア感は少なくなる・・・

すると厚切りの意味は火入れ具合、そして肉と衣のバランスにあるということか・・・

しっかり火を通している場合は、衣が多いか少ないかの違いでしかない気がする・・・

結局大事なのはバランス・・・バランスポイントをどこに置くかがその店の主張であり、我々食べる側も好みが分かれるところになるのか・・・

今まで闇雲に厚切りを求めてきたが・・・自分の求めるバランスポイントはどこにあるのか?これからはそれを追求していこう・・・

新たなとんかつの道が見えた気がする・・・

ごちそうさまでした

レシートに刻印された時刻は12時21分・・・まずい・・・

とんかつの道はひとまず置いて、駅への道を走り出した。