東海道 その12/大阪 北新地「 épais (エペ)」2020年1月16日~ミシュランガイド掲載のビストロ風とんかつ店

2020年12月14日

ミシュランガイド掲載店 という紹介文に惹かれた。昨年末から満足できるとんかつに出会っていない。

とんかつの味は悪くなくても、肉の匂いが気になったり・・・旨~い!という感動から遠ざかっている。ミシュランガイドをさほど信用している訳ではない。しかし何かに縋りたかった・・・

大阪 北新地のとんかつ店「 épais (エペ)」はかなり有名らしい。ネットでは予約で一杯という情報もあるので電話してみると、テーブル席は予約だが、カウンター3席は予約なしで入店順に案内しますとのこと。

開店は11時なので11時過ぎには入れるように新幹線の時間を決めた。今度こそ、旨いとんかつが私を待っている筈・・・。

東梅田から徒歩5分。Google mapで見るとすぐに見つかりそうだが、これがすぐにわからなかった。

Google mapの場合、実際の場所とずれたところに表示してある場合もあるので、ちょっとわからないと周辺をぐるぐる回ってしまう。これでしばしば失敗する。今回がその典型例である。

見つけてみると地図通りの場所だったが雑居ビルの3階。クラブかスナックの看板にしか見えないが、épaisという文字が見える。 

ニュー華ビル3階 épais の文字が見える

一旦見つけてみると、ビルの入り口横にも看板が出ていた。何故最初にこれに気づかないんだろう。自分が嫌になる瞬間だ。エレベーターで3階に上がると、とんかつ店には見えないエントランスが現れた。

とんかつ店?

予約でない旨告げると、カウンターに案内された。3席のうち1席には女性が座っており、2席が空いていた。

許可を得て撮影しています

席に座ると女性スタッフが作業をしているのが間近に見える。カウンターの向こうは配膳スペースで、右奥に厨房があるようだ。見える範囲にいる店員さんは全て女性である。どうもとんかつ屋さんに見えない・・・

ランチのとんかつメニューはロースカツメニュー、ヘレカツ(ヒレカツ)メニューと、両者の組み合わせのスペシャルメニューに分かれる。私の選択は常にロースかつだ。

本日のロースカツは山形豚、信州タローポーク、そして東京Xとある。山形豚と信州タローポーク(ブランド名は信州太郎ポーク)はLWD三元豚といわれる一般的な品種であり、飼料や肥育環境を管理したブランドポークだ。

そして噂には聞いていた東京X!

ロースカツメニューで「東京X」、ヘレカツとスペシャルメニューで「東京エックス」と表記が違うのが気になるが、ブランド名はTOKYO Xである。

このTOKYO Xは日本で生み出された最初の品種であり、私の好きな黒豚(パークシャー)との比較試験で黒豚よりも総合評価が高いという試験結果もあるそうだ。

生産量が少ないため、取り扱っているとんかつ店も少なく、また、取扱店でも常時あるわけではない。一度食べてみたいと思っていたが、ここで出会えるとは・・・

ここは、「東京X特選ロースカツ定食(税込5350円)」、ちと高いが、この一択だ!

と思ったところで迷いが生じた。

このところ、とんかつを食べる度に三元豚の肉の匂いが気になっている。私にとって原点の、東京駅の黒豚とんかつ店「鹿児島 黒かつ亭 東京駅店」で味覚を確認しなければと思いつつ果たせていない。

この味覚嗅覚に迷いが出ている今、TOKYO Xのとんかつを食べたとして、それは私にとって満足いく結果になるだろうか・・・

いや、TOKYO Xとの初めての出会いは万全の状態で迎えたい・・・今の私はTOKYO Xに値しない・・・

ならば山形豚と信州タローポークの一騎打ちだが、両方とも食べるのは初めてで、どちらが旨いか判断がつかない。

メニューは山形豚が、「上」、「特選」、「特上」の順に高級になり、信州タローポークは「サーロイン」と「特選」の2種類。

山形豚にしようと思ったのは「特選」の上のランクに「特上」があるので、なんとなくそちらのほうが旨い気がしただけである。

「上と特選と特上はどう違うんですか?グラム数ですか?」近くに来た店員さんに聞いてみた。

「上よりも、特選、特上はそれだけ良い部位をお出ししています。グラム数はどれもシングルが約200g、ダブルは倍の400gです。」

ダブルが400g!一人前のとんかつとして、初めて聞く大きさである。ブログアイコンにもなっている「とんかつ 大喜」の「特選ロース 超厚切り」が300gである。ギリギリ完食できたが、400gはとても食べられない。二人でシェアすることを想定しているのだろうか?

当然シングルとなるが、200gで特上だと3560円!これも初めて聞く値段だ。

現在私のイチ押しである「のもと家」(東京 芝公園)のエアーズロックとんかつ「厚切りロースかつ240g」が鹿児島黒豚、しかも240gで2,800円である。

それに比べ山形豚はブランドポークとはいえ、三元豚である。200gで3560円は異次元の値段だ。

「特上はそれだけ良い部位をお出ししています」というからには・・・例えばシャトーブリアン並みの希少な部位なのだろうか?これだけ値段が高いと却って興味が湧いてくる。

よし、ここは「とんかつに妥協しない」というブログポリシーに従い、「山形豚特上ロースカツ定食」3,560円に決めよう。

こういう心の動きを狙って普通の肉の値段を高くしているなら完全に私の負けだが・・・そんなことは無いだろうと注文した。

さほど待つことなく、料理が出てきた。「豚肉味噌のパーニャカウダです。」

パーニャカウダと来たか・・・目の前のカウンターに見えていたので、きれいなサラダだと思っていたが・・・

箸にもロゴが・・・

うーん、美しい皿に綺麗に盛り付けられた野菜、そして箸まで、一つの作品のように綺麗である。食べてみると、豚肉味噌はくどくなく、野菜の瑞々しさに丁度いいアクセントを添えており、旨い。

メニューにはパーニャカウダは載っていないが、これは前菜あるいはお通しというところか・・・ますますとんかつ屋さんに思えない。

などということをあれこれ考えながら店の様子を見るうちに、いよいよとんかつの登場である。

「山形豚特上ロースカツ定食」3,560円(税込)

これもまた美しい一皿である。皿は前菜と同じデザインだ。

ふんわりと盛り付けられたキャベツとクレソンが背景の山々とすれば、一切れずつ美しく並べられたとんかつは広がる大地か、はたまた流れる川か・・・

肝心のとんかつは恒例の断面チェックをするまでもなく、絶妙な火入れ具合が見て取れる。ほんのりとピンク色に染まり、きらきらと輝く肉汁・・・。

厚さ2cmほどの適度な厚切り、カットしてある幅はそれより薄い、1cm強というところか。衣が薄く、きれいに肉と馴染んでいる。

そして石板にまぶされた塩、これもまたアートである。一つ一つの演出は素晴らしい・・・塩自体にも工夫があり、「○○茸の塩です」と紹介してもらったが、名前を忘れてしまったのは残念である。

この作品を壊すようで申し訳ないが、まずはとんかつを一切れ石板に載せ、塩をつけて、いただきます!

旨い!肉は柔らかく、噛み切るとサクッとした衣と共にジューシーな味わいが広がる。カットしてある幅が薄いので噛み応えは少なく、すっと噛み切れる上品な食べ心地である。確かに肉質はいい。黒豚に比べるとやや淡白な味わいであるが、旨いとんかつである。

しかしやはり肉の臭いは感じる。ブランドポークのいい部位ということで期待したが、強くはないにしてもこれまで三元豚で感じた臭いを確かに感じる。

二切れ目、三切れ目と食べ進むうち、あれこれ頭に浮かんできた。

このとんかつの断面を見せる並べ方、これは「 épais (エペ)」の様々な写真で見ていたし、他のとんかつ店の紹介写真でもこういう並べ方をしている店がある。

しかし改めて目の当たりにすると疑問が湧く。このように並べると、普通のとんかつよりも見栄えはするかもしれないが、見た目以外に何かメリットがあるのだろうか?

「 épais (エペ)」の紹介記事では、余熱を使ってとんかつに火を通していると書いてあったので、ベストの状態でカットして並べると、最高の火入れ状態がキープされるというメリットがあるかもしれない。熱い衣に包まれたままだと、どんどん余熱が中に入って火が通りすぎてしまうという危惧はあるだろう。

しかし一方でとんかつが冷めるのも早くなり、肉汁も流れやすく、風味が損なわれそうな気もする。これは一概にどちらがいいとは言えないな・・・まさに店のポリシーが表れるところか。

あれ?

強烈な疑問が湧き、通りがかった店員さんに尋ねた。「これって、端はどうなったんですか?とんかつの両端の部分は・・・」

皿に並んだとんかつは全て同じような形状で端の部分が無い・・・

「あー、そこは無いんです。」

「え?・・・無いって・・・捨てるんですか?」

「捨てはしませんが・・・お出ししない、という事です。」

・・・そういうことだったのか・・・

確かに使わない部分も賄いで食べたり、あるいは肉味噌にしたりして使えるので、捨ててはいないのだろうが、とにかく料理としては提供しないということだ。

通常1枚のロースかつは楕円形に近い形状で、一切れずつ大きさも違う。しかし、改めて見るとこの皿の上の6切れのとんかつはどれも同じような大きさ、形状である。

特上がいい部位だというのは、僅かしか取れない希少で旨い部分ということでは無かった・・・

大きな肉の塊から、同じ形状にカットできる部分を選んでいるということなのだろう。売り物にならない部分が多くなるので、コストは高くなるのはよく分かる。分かるが・・・

なんと勿体ない!!!

それを好む人も少なくないのだろう・・・ここの店主がいいものを提供しようと考え抜いた結果なのだろう・・・

しかし・・・私はロースかつの一切れ一切れが、大きさも違い脂身の比率も違う、その変化を一切れ食べる毎に楽しんでいる。端っこの脂身の多い部分をソースで食べるのも好きなのだ・・・

そういう事のために、黒豚の1.5倍以上の値段になるなら、これは私にとってはコスパが悪すぎる・・・

ドレッシングも美味しい

大葉のモヒートのドレッシングで食べるキャベツも旨い。ご飯も味噌汁も旨い。そして、デザートのアイスクリームと紅茶・・・

店の雰囲気からメニュー構成、一品一品の料理の旨さはもちろんのこと、器、盛り付けにも気遣いが行き届いている。本当にいい店であることには疑いがない。

しかし、今回の「山形豚特上ロースカツ定食」は、私にとっては勿体無いという意識が消えない。

TOKYO Xのロースカツも食べてみたいが、やはり山形豚と同じような出し方になるのだろうか・・・あれこれ考えながら会計を済ませ、エレベータを降りるとレシートを貰うのを忘れたことに気がついた。(ごちそうさまでした)

そして肉の匂いの問題は残った。TOKYO Xは匂いが少ないと聞くが、今の私は結局一度黒豚に戻るしかないだろう。次回の出張は東京。今度こそ東京駅の黒豚とんかつ店「鹿児島 黒かつ亭 東京駅店」で味覚嗅覚の迷走に決着をつけてやる・・・湧き上がる闘志を感じながら午後の会議の場へと歩き出した。

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